エンゲージメントを定義する際には、ユーザーの習慣性を測定する最適な指標として、通常、サイト訪問日数を基に定義します。昨年見られたエンゲージメントの最大の傾向は、ニュースサイトへのトラフィックが急増したことによるセールスファネルの短縮化でした。これにより、新規サブスク契約者をいかに定着させるかという課題が生じ、新たなオンボーディングプログラム(顧客を定着させる施策)の必要性が強まったのです。
セールスファネルの短縮化
かなりの割合のオーディエンスが、最終アクセスから30日以内の最初のサイト訪問日にコンバージョンすることは以前からわかっていましたが、コンバージョン前のエンゲージメントがどのように変化するかまでは把握していませんでした。しかしサブスクリプションサービスの成長に伴い、近年ではそれが明らかになりました。
上記のチャートは、PIANOクライアントのサブスクリプションビジネスにおける、初年度のサイト訪問日数別のコンバージョン率を、2年目と比較したものです。初年度は、月に5日以上訪問したエンゲージメントの高いユーザーがコンバージョンの約43%を占め、エンゲージメントの低いユーザーによるサイト訪問初日のコンバージョンは33%にとどまっています。しかし2年目になるとその比率は逆転し、初日にコンバージョンが発生するのは約41%、5日以上の訪問日数のグループからのコンバージョンは32%にとどまります。
この傾向の変化は、突然おこるものではなく、サブスクリプションビジネスを開始して数ヶ月で起こり始めます。ビジネス開始後3ヶ月目には10+daysのユーザー(訪問日数が10日以上でコンバージョンしたユーザー)の割合は下がり始めると同時に、サイト訪問初日でコンバージョンする割合が上がり始めます。
これは重要なインサイトです。ロイヤルユーザーはサブスクリプションオファーを受けてから、早い段階でのコンバージョンが期待できますが、エンゲージメントの低いユーザーのコンバージョンを促進させる施策に素早く切り替えることが重要です。その施策とは、トライアルオファー・期間限定の価格設定・ブランドをよく認知していないサイト訪問者にも響くようなサービス内容の改善などが挙げられます。そしてカスタマージャーニーの早い段階で、サブスクリプションオファーを表示することも重要な要素です。
オンボーディング(定着化)の重要性
サブスクリプション会員になってから初めの数日間にオンボーディングプログラムを行うことは、エンゲージメント向上させる上で欠かせないものです。そしてこのエンゲージメントがリテンションやロイヤルユーザー獲得に影響します。この時点でエンゲージメントを高めておかなければ、すぐにキャンセルしてしまったり、契約を継続してもサイト訪問をしない「休眠会員(グラフ内では Sleeperと表示)」に早変わりしてしまいます。30日以上サイト訪問をしていない有料会員を休眠会員と呼び、下記のグラフでは、平均的なメディアサイトでは、なんと有料会員のうち40%が休眠会員になっていることがわかります。
当然のことながら、このように関心を失った有料会員が、解約全体の大部分を占める傾向にあります。「休眠会員」が解約するまでには、数ヶ月の期間を要するかもしれませんが、年額契約者のうちの約半数、月額契約者の約3分の2はサイト訪問をやめてから1年以内に解約をしています。
PIANOのリサーチによると、有料会員はすぐに「休眠状態」に陥ってしまいます。休眠会員のうちの約60%が、サブスクリプション契約を始めて2ヶ月以内にサイト訪問をしなくなるということがわかっているので、とにかく早い段階でエンゲージメント向上とサイト訪問の習慣を植え付ける為の、オンボーディングプログラムやその他の施策を実行することが非常に重要です。
「コンバージョン率はどのくらいになりますか?」という質問は、PIANOがお客様からいただく最も多い質問の1つです。PIANOではコンバージョン率を「有料オファーを見てコンバージョンに至った訪問者の割合」と定義しています。有料オファー表示率が低く、コンバージョン率を高く目指すサイトよりも、有料オファー表示率が高く、コンバージョン率が多少低いサイトでは、後者のほうが一般的にサブスクリプションビジネスが成功しています。有料コンテンツからのコンバージョン率の平均は0.2%ですが、そこにはかなりの幅が生じます。PIANOのお客様は、10%以上のコンバージョン率から0.001%のコンバージョン率まで様々な数値を見ています。その理由は以下の通りです。
オファーメッセージ表示方法の重要性
コンバージョンは、サブスクリプションオファーのコピー(文言)と各表示方法の頻度の組み合わせに大きく依存します。サブスクリプションオファーには4種類の基本的な表示方法が存在します。
- ユーザーが閲覧し、プランを選択できるランディングページ
- ユーザーがアクションを起こさない限り、それ以上の閲覧ができないハードペイウォール
- ページ閲覧を中断するが、課金をしなくても解除できるソフトペイウォール
- リボン(画面下部などに帯状に表示する方法)や、画面の一部のみを使用し、閲覧の妨げにならず、簡単に非表示にできる通知
これらの有料テンプレート(PIANOプラットフォームにおいての名称)は、コンバージョンジャーニーでの役割が異なるため、オファー表示率やコンバージョン率が大きく異なります。
- リボンやソフトペイウォールは、ファネルの初期段階で使用されることが多く、従量制のペイウォールの残りの記事閲覧回数を数えたり、一般的にサブスクリプションやブランドの価値を訴求するものです。この2種類を合計すると、サブスクリプションメッセージの表示回数は平均で60%近くになりますが、コンバージョン数は10%未満となります。
- ハードペイウォールは、読者に課金するか、閲覧をやめるかの決断をその場で迫るため、行動を促すのに最も効果的です。ランディングページに比べてコンバージョン率が低いものの、コンバージョンを成立させる上で重要な役割を果たしています。
- ランディングページへの訪問者は比較的少ないですが、高い支払い意欲を持っている傾向が強いため、この場合はオファー表示率が低いほど、コンバージョンする割合が高くなるという結果が出ています。
このように、状況に応じたオファー表示方法の違いが、異なるコンバージョン率を生み出すことがわかりました。そしてもちろん同じ施策でも、価格設定・メッセージング・サービス内容・オファー表示率・ページレイアウトなど様々な要因がパフォーマンスに影響を与えます。
上記グラフの中央値に着目すると、ランディングページのコンバージョン率が、ハードペイウォールの25倍であることがわかります。しかし、ランディングページのコンバージョンは多くの場合、他の施策による結果です。以前にペイウォールで閲覧ができなかったユーザーを始め、有料キャンペーンや口コミでサブスクリプションオファーを探していたユーザー、購買意欲の高いユーザーなどが可能性として考えられます。
ランディングページが長い時間をかけて最適化を行うべき重要なものであると同時に、ハードペイウォールは、わずかなコンバージョン率であっても、多くの場合はコンバージョンに大きな影響を与える存在です。ハードペイウォールがコンテンツの訪問者数をコントロールできるからです。下記のデータからわかるように、ボトムリボン(画面下部の帯状のオファー表示)の2倍のコンバージョン率のソフトペイウォールよりも、更に10倍高いコンバージョン率を有しています。
これらの知見としては、オファー表示方法のそれぞれの効果は、独立して考えることができないということです。例えば、効果的なボトムリボンは、訪問者がペイウォールに到達したときに、より高い率でコンバージョンする(もしくはより高いリテンションを出す)ように、誘導することが可能です。オファー表示方法ごとの特性や効果を理解し、全体的なコンバージョン数をあげていくためにメッセージを最適化していくことが重要です。
消えつつある無料トライアル
2020年1月の新規月額プラン加入者のうち、17%が無料トライアルからの契約者でしたが、2020年12月の時点では、その割合は5%未満まで下がりました。これは、無料トライアルをより深く分析することで見えてくる、収益性へのインパクトの低さを理解したパブリッシャーが、自社の価格設定に自信を持ち、より効果的なプロモーション戦略を構築し始めたからです。
トライアルは一般的にリテンションに大きな影響を与えます。トライアルではない月額プランの場合、2ヶ月目までのリテンションの中央値は86.1%です。有料トライアルは、たとえ1ドルという比較的低い価格であっても、トライアル期間が終了した時点で82.1%のユーザーを維持する一方で、無料トライアルの場合は、課金が始まると61.7%しか定着せず、結果としてライフタイムバリューが大幅に低下しています。
トライアルはサブスクリプション契約獲得の促進をする重要な期間です。トライアルを提供することでコンバージョン率が2倍になった例もあります。しかし無料トライアルは有料コンバージョンほど劇的にコンバージョン率が上がることは稀で、リテンションの観点から見ても、有料トライアルの採用が賢明な選択だと言えます。
2020年の1年間で無料トライアルが減少した事実から、サブスクリプションビジネスを運営する企業の上層部にも、この意見は広く浸透してきているといえるでしょう。
「リテンション率」とは、一定期間に渡りサブスクリプションを継続しているユーザーの割合を言いますが、昨年サブスクリプションビジネスを立ち上げた多くの企業にとって、リテンション率は重要なテーマとなっています。リテンション率は、サブスクリプションビジネス自体の歴史の長さ、そして実際のサブスクリプションサービスが月額であるか年額であるかの両方に起因することがわかっています。
サブスクリプション継続期間の重要性
下記のグラフからもわかるように、解約率は契約した月が最も高く、そのうち80%はユーザー自身の意志で解約しています。ユーザーがサブスクリプションを始めたその日から、数ヶ月が最も解約リスクが高いという事実から見て、ユーザーにサブスクリプションの特典を紹介し、早期の利用とエンゲージメントを促すオンボーディング・キャンペーンは有益であると言えます。
PIANOの解約傾向アルゴリズムから、「サブスクリプションの継続期間(開始してからの日数)」が解約リスクと最も関連性の高い指標の1つであることがわかります。正規の価格で支払いを複数回行っているユーザーは継続する可能性が高い傾向にあります。
新型コロナウイルス感染症の大流行による有料会員の変化
新型コロナウイルス感染症の影響による、サブスクリプション契約数の急増を受け、多くの企業やメディア・アナリストは、新規に獲得した契約の大部分が解約されると予想していましたが、実際にはそのようなことは起こりませんでした。世界保健機関(WHO)が2020年3月にパンデミックを宣言した後に契約した月額プランは、パンデミック前に契約した月額プランよりもリテンション率が高くなっていることがわかります。
リテンションが向上した理由の1つは、24時間リアルタイムで今起きていることを報道するスタイル(24hours news cycle)が新規有料会員獲得に貢献したことです。多くの人間が興味のあるニュースを立て続けに報道することで、有料会員を惹きつけ、解約リスクの高い初期段階を乗り切ることに成功しました。
長期プランの推奨
これまでPIANOのプラットフォームでは、新規契約の約3分の2が月額プランでしたが、年額プランのサブスクリプションはリテンションやライフタイムバリューが高いことから、年額プラン契約を促進させることがビジネスの発展に寄与することは言うまでもありません。
明らかな違いとして、月額プランには1年間に12回、解約や支払いエラーが生じる可能性があるのに対し、年額プランにはそれが1回のみだということです。下記のグラフでは、契約1年後のリテンション率を比較していますが、中央値では、その年の終わりに月額プラン契約者は46%しか残っていないのに対し、年額プラン契約者は74%が継続していることがわかります。
2020年の最後の3ヶ月間、PIANOの導入顧客にプロモーションや価格戦略で、年間サブスクリプションを促進する動きが多く見られ、ブラックフライデーやサイバーマンデーなどの特別キャンペーンにより、1日あたりのコンバージョンが3倍以上増えた例もありました。リテンション率やライフタイムバリューを理解した上で、キャンペーンを実施することで収益が向上し、より安定したサブスクリプションビジネスを展開させることに成功しました。(下図参照))